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平成28年司法試験 民法の答案例

この記事では、平成28年司法試験論文式民事系科目第1問(民法)の答案例をご紹介したいと思います。

 

◼︎答案例

 

第1 設問1

1 小問⑴

⑴ 請求の根拠

 EはA及びDに対し、売買契約(555条)に基づき、甲土地の所有権移転登記手続請求(以下「本件請求1」という。)をすることが考えられる。

⑵ 請求の当否

ア まず、Eは、Cの代理人と名乗るAとの間で、平成24年2月10日、甲土地を代金450万円で買う旨の売買契約(以下「本件売買1」という。)を締結している。また、Aは当時18歳で未成年であるから(4条)、その父であるCはAの財産管理権を有する(824条)。

イ そして、本件売買1はAが自らの遊興を原因とする借金を返済するために締結したものであるが、外形的客観的にみて利益相反行為(826条1項)にはあたらない。

ウ では、いわゆる代理権濫用として無効にならないか。この点、代理権濫用においては、代理行為の利益を本人に帰属させる目的がなく、心裡留保に類似した状況にあるといえるから、相手方が代理権濫用につき悪意又は有過失であれば、代理行為は無効となる(93条但書類推)。もっとも、親権者には広い裁量が認められるから、代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情がある場合にのみ、代理権濫用になる。本問では、上述のとおり、Aは自らの遊興を原因とする借金を返済するために本件売買1を締結しており、子の利益を保護するという法の趣旨に著しく反するから、代理権濫用にある。そして、Eは当時かかる事情を知っており、代理権濫用につき悪意といえる。したがって、本件売買1は無効である。

 エ ここで、代理権を濫用したAが無効を主張することの当否が問題となる。この点、代理権濫用があったとしても無権代理ではないから、追認(116条)は問題とならない(119条本文)。また、代理権濫用につき悪意である相手方は保護する必要に乏しいことから、信義則(1条2項)により、Aによる新たな持分譲渡を擬制する(119条但書)、あるいはAによる無効主張を制限することも、妥当ではない。

 オ よって、本件請求1は認められない。

2 小問⑵

⑴ 請求の根拠及び内容

 DはFに対し、乙土地の持分権に基づく妨害排除請求として、丙建物収去乙土地明渡請求(以下「本件請求2」という。)及び乙土地所有権移転登記抹消登記手続請求(以下「本件請求3」という。)をすることが考えられる。

⑵ 請求の当否

ア かつて乙土地を所有していたCが平成24年3月5日に死亡しており、その配偶者であるDは、Cの父親であるAと共に、Cを相続するから、Dは乙土地につき三分の二の割合による持分を有する(882条、890条、896条、889条1項1号、898条、899条、900条2号)。そして、Fは乙土地上に丙建物を建築して居住しており、また乙土地についてF名義の所有権移転登記が存在する。

 ここで、FはEから平成24年3月30日に乙土地を代金750万円で購入している(以下「本件売買2」という。)。しかし、Cの代理人であるAがEに対し乙土地を代金600万円で売る旨の売買契約は、上述した本件売買1と同様に無効であるから、Eが乙土地の所有権を取得することはなく、それゆえFが本件売買2により乙土地の所有権を取得することもない。

 したがって、乙土地の持分権者であるDは、保存行為(252条但書)として単独で、本件請求2・3をすることができる。

イ もっとも、Fは乙土地についてのE名義の所有権移転登記を信頼して本件売買2を締結しており、そのようなFを保護すべきとも思える。この点、虚偽の外観の存在について帰責性のある者は、当該外観を信頼した第三者に対し、当該外観の虚偽を主張できない(94条2項類推適用)。しかし、本問では、E名義の所有権移転登記という虚偽の外観は、Cの父親であるAが作出したものであり、Cが作出し、あるいは存続させたものではない。また、本件売買2が締結された当時、Cは未成年であり、父親の取引行為を監視・監督すべき立場にはないから、当該虚偽の外観の作出・存続と同程度の帰責性があるともいえない。したがって、本件売買2につき94条2項を類推することはできない。

ウ よって、本件請求2・3は認められる。

第2 設問2

1 小問⑴

⑴ 請求の根拠及び内容

 MはEに対し、消費貸借契約(587条)に基づく貸金返還請求として500万円の支払請求(以下「本件請求4」という。)をし、また利息契約に基づく利息請求(以下「本件請求5」という。)及び履行遅滞に基づく損害賠償請求(415条。以下「本件請求6」という。)をすることが考えられる。

⑵ 請求の当否

ア HはEに対し、平成26年4月1日、弁済期を平成27年3月31日、利息を年15パーセント、遅延損害金の利率を年21.9パーセントとして、500万円を貸し付けているところ(以下「本件消費貸借1」という。)、平成27年3月31日は到来及び経過している。そして、HはMに対し、平成26年8月1日、本件消費貸借1に関する債権を代金400万円で売った(以下「本件債権譲渡」という。)。さらに、Eは平成26年8月5日に当該債権譲渡についてのHからの手紙を受領しており、Mは当該債権譲渡につき債務者であるEに対抗できる(467条1項)。

イ しかし、本件消費貸借契約1は、Hが賭博の賭金にあてることを目的として、これをHに打ち明けたうえ、締結されたものであるから、公序良俗に反し無効となる(90条)。

ウ この点、平成26年8月10日にMに交付された手紙において、Eは異議を留めないで債権譲渡を承諾したものといえるから、これによりEはHに対して無効を対抗することができないとも思える(468条1項)。確かに、本件消費貸借は動機という外部から認識困難な事実を根拠として無効とされており、取引安全を保護するという468条1項の趣旨に鑑みれば、無効主張を制限すべきとも思える。しかし、同項は異議を留めない承諾をした債務者の帰責性を根拠として抗弁の切断を認めるものであるところ、公序良俗に反する法律行為の効力が私人の帰責性によって左右されると考えるべきではないから、Eの異議を留めない承諾をもって無効主張は制限されない。

エ よって、本件請求4ないし6は認められない。

2 小問⑵

⑴ 請求の根拠及び内容

 MはEに対し、不当利得返還請求(703条)として、500万円とそれに対する利息の支払を請求し(以下「本件請求7」という。)、またその遅延損害金の支払を請求することが考えられる(以下「本件請求8」という。)。

⑵ 請求の当否

ア 不当利得返還請求が認められるためには、法律上の原因がない利得が存在し、これと社会観念上の因果関係がある損失のあることが要求される。

 本件についてみるに、本件消費貸借1に際してEはHから500万円を受領しており、これは利得にあたる(以下「本件利得」という。)。そして、上述のとおり本件消費貸借は公序良俗に反して無効であるから、本件利得には法律上の原因がない。また、MはHに対し本件債権譲渡に基づき代金400万円を支払っており、これは損失にあたる。しかし、かかる代金400万円の支払いは、上記Eの利得との間に社会観念上の因果関係がない。

イ では、Mは本件債権譲渡によりHのEに対する不当利得返還請求権を取得しないか。

 本件債権譲渡は、本件消費貸借1に関する債権を既発生の利息債権も含めて広く譲渡するものであり、その趣旨は本件消費貸借1が有効であることを前提としてその貸主と同じ利益状態を提供する点にあると考えられる。かかる趣旨に鑑みれば、本件消費貸借1が有効である場合の貸主と同じ利益状態を提供するために必要な債権は全て譲渡の目的になると考えるべきである。

 そこで検討するに、上述のとおり本件消費貸借1に際してHはEに対して500万円を交付しており、Hは本件利得と社会観念上の因果関係のある損失を受けたといえるから、HはEに対する不当利得返還請求権を有する。そして、一般にいわゆる給付利得の返還が認められる趣旨は給付の原因となった法律関係が存在する場合と同じ利益状態を提供する点にあるから、上記不当利得返還請求権は、本件消費貸借1が有効である場合の貸主と同じ利益状態を提供するために必要な債権といえる。

 したがって、上記不当利得返還請求権は、、本件債権譲渡の対象になる。

ウ そして、上述のとおりEは本件消費貸借1の無効原因について知っており、悪意の受益者といえるから、返還すべき範囲には利息が含まれる(703条)。さらに、不当利得返還債務は期限の定めのない債務であるから、債務者であるEは履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う(412条3項)。

エ なお、不法な行為に関与したものを保護しないという708条の根拠に鑑みれば、同条の適用については不当利得返還請求をする者ごとに相対的に判断すべきところ、本問においてMは本件消費貸借1が賭金調達目的で締結されたことを知らないのであり、不法な原因は受益者であるEについてのみ存したというべきであるから、返還請求が不法原因給付として制限されることはない(708条但書)。

オ よって、本件請求7及び8は認められる。

3 小問⑶

⑴ 請求の根拠

 LはEに対し、保証委託契約に基づく求償請求(459条1項)として584万円の支払いを求めることが考えられる(以下「本件請求9」という。)。

⑵ 請求の当否

 まず、EはKとの間で平成26年4月15日に消費貸借契約(以下「本件消費貸借2」という。)を締結しており、同日、Eから委託を受けたLは、Kとの間で、本件消費貸借2に関するEの債務を連帯保証する旨の保証契約を、書面により締結している(なお、本件消費貸借2は、いわゆる諾成消費貸借契約として有効に成立している。)。そして、LはKに対して平成27年6月29日に連帯保証債務の履行として584万円を支払った(以下「本件支払」という。)。

 しかし、そもそもEはKから本件消費貸借2に基づく500万円の交付を受けていないため、EのKに対する貸金返還債務等は発生していない。そこで、本件支払が「債務を消滅させるべき行為」(459条1項)にあたるか問題となる。

 この点、委託を受けた保証人が主債務者に対して事前の通知をした場合において、主債務者が主債務の発生原因たりうる行為をしていたにもかかわらず、当該通知の時点において主債務が発生しておらず、そのことを主債務者が認識していたときは、主債務者が保証人に対し主債務が発生していないことを通知しなければ、保証人が免責のためにした行為を有効とみなすべきである(446条1項・443条2項類推適用)本件についてみるに、委託を受けた保証人であるLは主債務者であるEに対して事前の通知をしているところ、上述のとおりEは本件消費貸借2を締結していたにもかかわらず、当該通知の時点で主債務である本件消費貸借2に基づく債務返還債務等は発生していなかった。そして、Eはこのことを認識していたにもかかわらず、主債務の不発生についてLに通知しなかった。したがって、Lが免責のためにした本件支払は、有効な弁済とみなされる。

 以上より、本件支払は「債務を消滅させるべき行為」にあたる。

 よって、本件請求9は認められる。 (以上:4509字)

 

*設問2⑶について、出題趣旨は443条1項を類推適用するようにも読めますが、本問の事案では、保証人が主債務者に対して「免責のためにした行為(=本件支払)を有効であった」と主張できるか否かが問題となっていることから、上記答案例では、当該効果を導くことのできる同条2項を類推適用する構成をとっています。出題趣旨に従った答案例については、各予備校等の答案例をご参照ください。